現役便利屋が語る「便利屋あれやこれや」シリーズ。話し相手や同行,同席などの依頼は、ごくたま〜にですが便利屋にあります。もちろん顔見知りのリピーターで、その便利屋の人柄によりけりですが。
クリスマスイヴの前夜に便利屋へ依頼された内容とは?
便利屋の仕事をはじめて驚いたのは、若い女性の一人暮らしが多いことだ。
別に家中を見なくとも、玄関に入ってシューズボックスを見ると、すぐに家族構成はわかる。
このシューズボックスを横切るのは二度目だ。
一度目は11月の終わり。
引越しと同時にソファーベッドを買ったので組立ててほしいとの依頼だった。
彼女は僕がソファーベッドを組立てている間、よく喋った。
地方から車で今日の朝、着いた。
これからの生活が不安だ。
美味しいお店、知ってますか?
ご家族はいますか?
便利屋さんってデートとかもしてるんですか?
そして今日12月23日、クリスマスイヴ前日
今度の用事は「一緒に食事」だ。
先月、僕が組立てたソファーベッドに二人で座っている。
家具はこのソファーベッドと小さなコタツとテレビとCDプレーヤー。
それだけ。
小さなコタツには、ろうそくが1本。
「どうせ、イヴは家族とすごされるんでしょ」と女性
答えてよいのか悪いのか、そんな質問
「............」
「だから、今日にしました」
彼女は僕を見て微笑む。
狭いワンルームにろうそくの灯が揺れる。
彼女の心も揺れているんだろうな、僕はそう思う。
でも、これ以上、揺らしちゃいけない。
僕はさっきから考えていた二つの選択肢のうちの一つを取る。
「本当は今日の予定だったんですよ、家族でクリスマスをお祝いするのは」
「あら、ごめんなさい」
「しょうがないです、仕事だから」
もちろん、彼女は暗い顔をする。
それからは沈黙が続く。
約束の2時間、もくもくと彼女の手料理を食べて、ワインを飲んだ。
そして、玄関先で約束の料金を受け取る。
外に出るとあちこちにイルミネーションが輝き、クリスマスソングが鳴っている。
僕の選択肢は正しかったんだろうか?
正しいと思うよ、と自分で自分に言い聞かせる。
お金で恋を買っちゃいけないよ......。
いつかあのシューズボックスに本物の恋の靴が並んでいるのを願いながら、僕は家に帰る。
それにしても、クリスマスは酷だな。